27坪の家でも豊かに暮らせる|4つの居場所をつくった自邸の設計実例

狭小住宅というと、多くの人がまず「狭い」「窮屈」という印象を持ちます。
そのため設計の現場では、“いかに広く見せるか”が優先されがちです。
自邸を計画するにあたって私が意識したことは、
「どう広く見せるかよりも、どこに居場所をつくるか」
です。
ここでいう「居場所」とは、単なる部屋のことではありません。
我が家の計画で心がけたところは、
- 庭を眺めながら夫婦で話す場所。
- 妻がプロジェクターで野球観戦に没頭する場所。
- 外の空気を感じながら食事をする場所。
- 家族の気配を感じながら仕事をする場所。
このように、そこでの過ごし方や気分と結びついた場所のことです。
私の自邸は27坪と、極端に小さいわけではありませんが、計画次第で暮らしやすさが大きく変わるサイズ感でもあります。
この記事では、実際に暮らしている27坪の自邸を通して、「居場所から考える設計」についてご紹介します。
27坪という広さそのものについて、実際に暮らして感じたメリット・デメリットは、こちらの記事で詳しくご紹介しています。
狭小住宅の広さと居場所
小さな家では、できるだけ間仕切りを減らし、一つの大きな空間にする方法がよく使われます。
もちろん、視線が遠くまで抜ける大きな空間には、開放感をつくりやすいという良さがあります。
ただし、すべてを一つの空間にまとめれば、必ず居心地がよくなるとは限りません。
我が家では、気分や用途によって過ごす場所を変えられるように、性質の異なる居場所を家の中に点在させました。
それが冒頭に記した、
- 坪庭を眺めながら何もしない時間を過ごす場所
- 一人で映像に没頭できる場所
- 室内と屋外の間で過ごす場所
- 家族の気配を感じながら仕事をする場所
一つひとつは、決して大きなスペースではありません。
それでも、異なる過ごし方ができる場所をつくることで、暮らしにさまざまなバリエーションが生まれるように計画しました。

寝室と坪庭の“余白”|何もしない場所の豊かさ

主寝室は10.51㎡、約6.3畳です。
決して広い寝室ではありませんが、坪庭とベッドの間に、ちょっとした“余白”を設けました。
今は、この窓際に椅子と小さなテーブルを置いています。
大きなスペースではありませんが、椅子を一脚置くだけで、単なる通路ではなく、立ち止まって過ごせる場所になります。
- 朝、坪庭からの柔らかい光を感じながら寛ぐ
- 夜、坪庭をライトアップしながら寝る前の時間を過ごす
主寝室と坪庭の間には、
- 幅782mm×高さ2,285mmのテラス窓
- 幅1,182mm×高さ2,285mmのFIX窓
この大きな窓を2枚並べています。
窓の向こうにある坪庭の広さは、約6.91㎡です。
27坪という限られた面積の中で、あえてこの“余白”をつくることで、暮らしの豊かさにつながると考えました。

椅子に座りながら妻と話をしたり、ライトアップした坪庭を眺めたりして、寝る前のひとときを楽しんでいます。
また、寝室の床には足触りのよい杉を採用し、それに合わせて天井にも杉を張りました。
天井高は2.2mです。
一般的な居室より少し低く抑えることで、坪庭に向かって視線が抜けながらも、包まれるような落ち着きが生まれました。
高い天井が合う場所もあれば、少し低い天井の方が落ち着く場所もあります。
寝室では、「自然素材と坪庭」に囲まれた、静かで居心地のよい空間になるよう意識しました。
床は「節有り」、天井は節の少ない「上小節」の杉材を選定しました。
床材も上小節にしたかったのですが、コストの問題で「節有り」としました。

小さな家では、用途の決まっていない空間は“無駄”と思われがちです。
しかし、窓際に椅子を置ける程度の余白があるだけでも、そこは一つの居場所になります。
余白の大きさよりも、「そこで何をして過ごしたいか」を考えることが大切です。
プロジェクター空間|約3.5畳の“逃げ場”

妻のたっての希望で、大画面での野球観戦を目的とした小さな鑑賞室を設けました。
場所は2階の納戸で、広さは5.74㎡、約3.5畳です。
室内の有効寸法は、間口約1.69m、奥行き約3.05m。(一部ダクトスペース)
決して広い部屋ではありませんが、この閉じた空間によって、より映像に没頭できる良さがありました。
ここはリビングとは別に設け、妻が一人の時間を楽しめるように計画したスペースです。
投影壁の反対側は、こんな感じです。

ゲームセンターで収集したキャラクターのぬいぐるみに囲まれながら野球観戦ができて、妻は大満足の様子です。

最下段に置いているのがプロジェクターです。
床から約50cmの低い位置から、反対側の壁に映像を投影しています。
映像を楽しむためのスペースなので、窓は設けず、あえて薄暗い部屋としました。
天井高も2.2mに抑えています。
小さな家では、できるだけ間仕切りを減らし、すべてをオープンにしたくなります。
しかし、小さく閉じた場所だからこそ、落ち着いたり、何かに没頭したりできることもあります。
この部屋は、用途を映像鑑賞に絞ったことで、約3.5畳でも十分に楽しめる居場所になりました。
我が家はコストを抑えるのに建具を付けませんでしたが、音は漏れ放題です。
ものすごく後悔しているわけではありませんが、扉を付けた方がよかったかな、という若干の後悔ポイントです。

改めて設計するなら、音を抑えながら場所を取りにくい引き戸などを検討すると思います。
小さな部屋を映像鑑賞用にする場合は、画面の大きさだけでなく、音漏れ、換気、コンセントや配線の位置まで考えておくことが大切です。
ルーフテラス|外と内のあいだの居場所

我が家は2階リビングで、そのすぐ近くにルーフテラスを計画しました。
ルーフテラスの広さは、幅約2.73m、奥行き約91cmです。
決して大きなテラスではありませんが、室内から少し外へ出て、気分を変えるには十分な場所になりました。
このルーフテラスは、坪庭上部の吹き抜けとつながっています。
ホットプレートで焼肉をしたり、普通の食事をしたり。
約91cmの庇があるので、天候によっては雨の日でも、なんとなく外に出たくなることがあります。


ルーフテラスの周囲は外壁とルーバーで囲い、外からの視線が入りにくいようにしています。
ルーバーは1階床付近から屋根まで連続しているため、外にいながらも守られているような感覚があります。
完全に開放された屋外ではなく、室内と屋外の間にあるような場所です。
リビングのすぐ隣なので、「ちょっと夜風にあたろうかな」という気分になります。

この記事を執筆している今も、このルーフテラスにいます。
閉じた空間なのでとても快適で、まるでカフェに来たような気分です。
バルコニーやテラスは、広さだけで使いやすさが決まるわけではありません。
- 普段過ごす部屋から気軽に出られるか
- 外からの視線を気にせず過ごせるか
- 雨や日差しをある程度避けられるか
- 食事や飲み物を運びやすいか
といった、室内との関係が大切です。
我が家の場合は、リビングの近くに配置したことで、特別な予定がなくても自然と使いたくなる居場所になりました。
我が家では、寝室だけでなく、浴室やダイニング、リビングからも坪庭へ視線が抜けるように計画しています。
床面積を増やさず、視線によって広がりをつくった考え方はこちらの記事で詳しくご紹介しています。
書斎|集中ではなく“混ざる設計”

書斎というと、個室に籠って集中する場所をイメージするかもしれません。
しかし、私の書斎は個室ではなく、ダイニングのすぐ横に配置しています。
仕事や勉強をしながらも、家族から孤立しない距離感です。
書斎カウンターは、長さ約1.5m、奥行き約60cm。
カウンターの高さは69cmです。
音が気になって集中できなさそう、と思うかもしれませんが、案外集中できるものです。
むしろ静かすぎるとかえって落ち着かなくて、私にとっては多少の生活音があるくらいが、ちょうどよいと感じています。

完全に一人になるのではなく、家族の暮らしに“混ざりながら”自分の作業ができる。
それが、この書斎の居心地のよさです。
もう一つ便利なのが、ダイニングチェアを書斎の椅子として兼用できることです。
そのために、書斎カウンターとダイニングテーブルの高さを、どちらも69cmに揃えています。
書斎専用の椅子を置く必要がないので、使わないときに椅子が邪魔になりません。
カウンターの周囲には本棚を設け、手元には2口コンセントを用意しました。
一つの部屋を書斎にするのではなく、ダイニングの一角に必要な機能を組み込む。
家具や椅子を兼用することも、27坪の中に居場所を増やすための工夫です。
居場所を増やすために、部屋を増やす必要はない

ここまで紹介したように、我が家では、ただ広い空間をつくるのではなく、性質の異なる居場所を家の中に点在させました。
- 何もしない時間を過ごす場所
- 一人で籠る場所
- 外とつながる場所
- 家族の暮らしに混ざる場所
居場所を増やすというと、部屋数を増やすことだと思われるかもしれません。
しかし、小さな家で個室を増やしすぎると、廊下や建具が増え、一室あたりの面積も小さくなります。
居場所は、必ずしも一つの部屋である必要はありません。
- 窓際に椅子を一脚置ける余白をつくる。
- ダイニングの横にカウンターを設ける。
- リビングから気軽に出られる屋外空間をつくる。
- 小さな納戸の用途を一つに絞る。
こうした小さな工夫でも、新しい居場所はつくれます。
大切なのは、「何畳の部屋をつくるか」から考えるのではなく、そこで誰が、どのように過ごすのかから考えることです。
小さな家に居場所をつくる4つのポイント
自邸での暮らしを通して、小さな家に居場所をつくるには、次の4つが大切だと感じています。
1.部屋の名前ではなく、過ごし方から考える
「書斎が欲しい」「バルコニーが欲しい」と部屋の名前から考えるのではなく、そこで何をしたいのかを具体的に考えます。
完全に一人で集中したいのか、家族の近くで仕事をしたいのかによって、書斎に適した場所も変わります。
2.開く場所と、あえて閉じる場所をつくる
小さな家だからといって、すべてを一つの空間にする必要はありません。
視線が外へ抜ける場所と、小さく閉じた場所の両方があることで、そのときの気分に合った居場所を選べます。
3.窓の前を通路だけにしない
窓は、光や風を取り入れるだけのものではありません。
窓の近くに座れる場所をつくれば、庭や空を眺める居場所になります。
窓の大きさだけでなく、どこから、どの姿勢で外を見るのかまで考えることが大切です。
4.家具や場所に複数の役割を持たせる
ダイニングチェアを書斎でも使うように、一つの家具を複数の場所で兼用すれば、必要な面積を抑えられます。
小さな家では、場所を細かく分けるのではなく、使い方を重ねることも有効です。
まとめ|広さではなく、過ごす場所を選べる家にする
27坪の自邸では、次の4つの居場所をつくりました。
- 坪庭を眺めながら、何もしない時間を過ごす場所
- 映像に没頭する、小さく閉じた場所
- 外の空気を感じる、室内と屋外の間の場所
- 家族の気配を感じながら仕事をする場所
一つひとつは、決して大きな場所ではありません。
それでも、性質の異なる居場所が家の中にあることで、暮らし方に変化が生まれました。
一人になりたいとき。
家族の近くにいたいとき。
外の空気を感じたいとき。
何もせず、庭を眺めたいとき。
そのときの気分に合わせて、過ごす場所を選べること。
小さな家の居心地は、リビングの広さや部屋数だけで決まるものではありません。
「どんな居場所が、どれくらい密度よく存在しているか」という視点も大切です。
広さではなく、居場所の設計。
それが、27坪の自邸で実際に暮らして感じている、小さな住まいの一つの答えです。
家の広さを考えるときは、「何部屋必要か」だけではなく、どこで、どんな時間を過ごしたいのかも考えてみてください。
例えば、
- 一人で落ち着きたいときは、どこで過ごしたいか
- 家族の近くで仕事や読書をする場所は必要か
- 外や緑を眺めながら過ごせる場所はあるか
- 少し気分を変えたいときに行ける場所はあるか
- 専用の部屋にしなくても兼用できる場所はないか
を書き出してみると、自分たちに必要な「居場所」が見えてきます。
居場所を増やすために、必ずしも家を大きくしたり、部屋を増やしたりする必要はありません。
窓際に椅子を一脚置く。
ダイニングの横に小さなカウンターをつくる。
リビングから気軽に出られる外部空間をつくる。
そんな小さな場所でも、そこで過ごしたい時間があれば、一つの居場所になります。
「何畳の部屋をつくるか」ではなく、「この家の中で、どんな過ごし方を選べるようにしたいか」。
間取りを見るときに、そんな視点も持ってみてほしいと思います。
土地・予算・間取り・性能まで含めて、家全体の優先順位から考えたい方は、「一級建築士の27坪の自邸から学ぶ家づくり」もあわせてご覧ください。

