一級建築士が自分の家を建てた時に“捨てたもの・選んだもの”|敷地面積27坪、自邸の計画
家づくりでは、
- 広い土地か、駅に近い土地か
- 広さか、性能か
- 部屋数か、暮らしやすさか
など、正解のない選択を何度も繰り返します。
私自身、一級建築士として多くの住宅を設計してきましたが、自分の家づくりでも迷いながら一つひとつ判断してきました。
実際に建てたのは、敷地約27坪・延床約27坪の小さな住まいです。
限られた予算と敷地条件の中で、「何を選び、何を手放したのか」
この記事では、自邸計画で実際に行った意思決定を、その理由とともに紹介します。
「どんな間取りにしたか」ではなく、「なぜその選択をしたのか」
これから家づくりを始める方が、自分たちの優先順位を考えるきっかけになれば幸いです。
まず最初に決めたこと|27坪という制約を受け入れる



土地価格の高騰や建築資材の値上がりにより注文住宅にかかる費用は年々上昇しています。
そんな中で、我が家の家づくりは、総予算5,000万円を上限にスタートしました。
さらに我が家の場合「地下鉄駅に近い場所に住みたい」という妻の要望がありました。
この条件の土地を札幌で探せば、土地代だけで2,000万円を超えるケースも少なくありません。
土地に予算をかけすぎると、その分だけ建物に使える予算が減ってしまいます。
そこで考えたのが、土地をコンパクトにすることで土地代を抑え、その分を建物に充てるという方法です。
ただ面積を小さくするだけでは、暮らしの豊かさまで小さくなってしまう気がしていました。
そこで私は、断熱性能や仕上材など、毎日の暮らしに直結する部分にはしっかりと予算をかけることを優先しました。
そうすることで、限られた予算の中でも立地と暮らしの質の両方を大切にできると考えました。
その結果、私たちが選んだのは「駅近の狭小地に、小さく建てる」という家づくりです。
限られた予算の中で、毎日の暮らしを優先した結果が27坪という選択でした。
私が当初考えていた予算の配分は下の図のようなイメージでした。

土地にかける予算を抑えられれば、その分を住宅性能や空間の質を高めることができます。
この考え方をもとに、実際の土地探しが始まりました。
選んだもの①|駅から近い暮らし

札幌で地下鉄駅から徒歩圏内の土地を探すと、坪単価は40万円以上が一般的です。
この条件から逆算すると、現実的に選べる土地は20〜30坪程度になることがほぼ決まりました。
そこで土地探しのポータルサイトを使って探し始め、候補になったのが次の2つの土地です。
- 土地A:駅から徒歩15分、約30坪の変形地(1500万円)
- 土地B:駅から徒歩9分、約27坪の周囲を建物に囲まれた敷地(840万円)
最初に問い合わせた土地Aは、幸いにもまだ検討者がいませんでしたので、すぐに話を進められる状況でした。
とはいえ地下鉄徒歩15分、妻はあまり乗り気ではありません。
私自身も、土地代が当初の予算を少し超えてしまうことには迷いがありました。
もう一つの土地B、駅まで徒歩9分ということもあり、妻の本命はこの土地です。
しかし、残念ながらすでに申し込みが入っていたので、私たちは2番手という状況。
「確実に購入できるなら土地Aだね。」
多少の予算オーバー感は否めませんが、夫婦で話し合った結果、一度は土地Aで進めることに決めました。
当時は、この土地で細長い住まいを計画する予定でした。
敷地間口が狭かったため、建物は2.5間(約4.5m)幅で考えていました。


ところが、仮申し込みに行くまさに直前。
「申し込み前に土地を見てから不動産会社に行こう」と、土地Aに立ち寄っていたそのタイミングで、土地Bを扱う不動産会社から一本の電話が入りました。
「1番手の方が融資で難しくなりそうなのですが、いかがですか?」
まさにこれから土地Aの申し込みに向かおうとしていた、その瞬間です。
もともと土地Bに魅力を感じていた妻に状況を伝えると、その表情を見ただけで答えは決まりました。
結局、土地Aはお断りし、土地Bを購入することを決めました。
こうして、我が家の27坪の家づくりが始まります。
狭小地で実際に暮らして感じたメリット・デメリットについては、こちらの記事にまとめています。

希望する土地に出会えるかどうかは、タイミングや縁も大きいと実感しました。

土地が決まり、ここからようやく建物の計画が始まります。
選んだもの②|性能は妥協しない
土地が決まったあと、間取りを考える前に「最初から妥協しない」と決めていたものがあります。
それが住宅性能です。
2025年当時は、「子育てグリーン住宅支援事業」によって、高い省エネ性能を備えた住宅に補助金が交付されていました。
我が家もその基準を満たすことを前提に、「断熱等性能等級6・一次エネルギー消費量等級8」を目標として計画を進めています。
↓断熱等級6・BEI=0.64、という性能になりました↓

もちろん補助金も理由の一つでしたが、それ以上に大きかったのは、北海道で長く快適に暮らすためです。
冬が長く寒さの厳しい地域では、断熱性能は毎日を快適に、そして健康に暮らすための基本性能だと思います。
だからこそ、限られた予算の中でもこの部分だけは削らないと決めていました。
我が家が採用した断熱仕様や、冬の住み心地についてはこちらの記事で詳しく紹介しています。
また、冬の暖房費についても実際のデータを公開していますので、気になる方はぜひ参考にしてください。

換気設備は、Panasonicのダクトレス第一種換気「IAQ-V」を採用しました。
個人的には、構造がシンプルでメンテナンスしやすい第三種換気に魅力を感じていました。
しかし、補助金の条件を満たすことに加え、
「これから普及が進むであろう熱交換換気を、自分自身で実際に体験してみたい」
という思いから第一種換気を選びました。
第一種換気の中でもダクトタイプは、将来的なダクトの清掃やメンテナンスを考えると、自邸ではできれば避けたいと考えていました。
一方で、一般的なダクトレスタイプは運転音が気になる製品もあります。
そうした点を比較した結果、最終的に採用したのがPanasonicの「IAQ-V」です。
唯一気になるのは、本体に厚みがあるので存在感があることです。

それでも実際に暮らしてみると、熱交換換気を自分で体験できたことは、建築士としても大きな収穫でした。
Panasonic熱交換器のメリット・デメリット、採用した感想と合わせて別の記事で詳しくまとめています。
選んだもの③|坪庭という豊かさ
せっかく自邸を建てるのであれば、ただ箱としての住宅をつくるのではなく、暮らしに豊かさを感じられる要素を取り入れたいと思っていました。
そう思うのは、これまで宿泊してきた旅館の空間に心地よさを感じていたこともあり、
「家の中でそんな心地よさを感じられないだろうか」
と考えたことが、坪庭を計画するきっかけになっていました。



こうして我が家では「坪庭のある暮らし」を設計のテーマの一つにしました。
坪庭は単に「小さい庭」があるだけではなく、住まいの中心となる存在として計画したいと考えていました。
寝室・浴室・2階リビング・ダイニング、さらにルーフバルコニーまでをゆるやかにつなぐ。
そんなことを思い描いていました。
限られた面積の中では、部屋を広くすることには限界があります。
だからこそ、空間同士をゆるやかにつなげ、視線が抜けることで広がりを感じられるような計画を目指しました。
その役割を担っているのが坪庭です。

また、お風呂もユニットバスではなく造作としました。
坪庭に面して配置し、壁と天井を板張りとすることで、外とのつながりを感じながら、一日の終わりにゆっくりと過ごせる空間を目指しました。
間取りは後から調整できます。
でも、「どんな暮らしをしたいか」という軸だけは、最初に決めておくことが大切だと思っています。

坪庭は、最初から今の位置に決まっていたわけではありません。
道路側に配置する案も検討しましたが、最終的には現在の東側を選びました。
その理由や、配置をどのように比較・検討したのかについては、こちらの記事で詳しく紹介しています。
これが計画時の浴室廻りのスケッチと、完成後の写真です。


設計当初に思い描いていた雰囲気を、そのまま形にすることができました。
坪庭によって室内の開放感をどうつくったのかは、こちらの記事で詳しく紹介しています。
27坪という限られた敷地では、その分だけ室内を広くすることもできます。
それでも私は、床面積を増やすより、毎日目にする景色や光、季節の変化を感じられる暮らしを選びました。
広さではなく、暮らしの質に面積を使う。
坪庭は、その考え方を最も象徴している場所だと思っています。
捨てたもの①|1階リビング
この土地を見た瞬間から、1階リビングは選択肢から外していました。
仕事でもプライベートでも車を使うため、1台分の駐車スペースは必須です。
27坪という限られた敷地では、1階でガレージとLDKの両方を十分な広さで計画するのは難しいと感じたからです。
また、この土地は周囲を建物に囲まれているため、1階の日当たりにも期待はできませんでした。
そこで、リビングを2階に配置し、大きな窓を設けることで、周りの視線を気にせず、安定した採光も確保できそうと考えました。
実際に暮らしてみると、想像していた以上に開放的で、プライバシーも確保しやすく、2階リビングはカーテンを閉めない生活を送っています。
2階リビングを選んで良かったと感じています。



実際に住んで感じた2階リビングのメリット・デメリットについては、こちらの記事で詳しくまとめています。
捨てたもの②|広さに頼る設計
27坪という敷地では、「広いLDK」や「ゆとりのある廊下」をつくることはできません。
だからといって「狭い家になる」とは考えませんでした。
私が目指したのは、
面積ではなく、広く感じられる空間をつくること。
2階リビングの計画では、道路側に向かって大きく開くプランも検討していました。
道路に向かって窓を設ければ、視線が遠くまで抜け、開放感を得られるのではないかと考えたからです。
しかし、最終的に選んだのは、その反対の考え方でした。


例えば、リビングとダイニングは坪庭を介して外へ視線が抜けるように計画しました。
窓の向こうに庭が続くことで、実際の床面積以上の広がりを感じられます。
また、室内のどこにいても光が届くように開口部の位置を調整し、空間同士がゆるやかにつながる構成としています。
もし広さだけを求めるなら、坪庭をなくして室内を広げる選択もありました。
しかし、それでは数字上の面積は増えても暮らしの豊かさは必ずしも増えないと考えました。
限られた面積だからこそ、
「何坪あるか」ではなく、「どう感じるか」
を大切にした設計です。
小さな家ほど、広さを足すことはできません。
だからこそ、視線や光、空間のつながりで広さをつくる設計を意識しました。

捨てたもの③|”あったら便利”より”毎日の心地よさ”
家づくりを進めると、「あったら便利そう」と思うものは次々と出てきます。
- 広い玄関
- 広い廊下
- 大きな収納
しかし27坪という限られた面積では、何かを増やせば、その分どこかを削らなければなりません。
そこで私が意識したのは、「本当に毎日使うものか」という視点です。
例えば収納は、一か所に大きくまとめるのではなく、使う場所ごとに分散しました。
また、洗濯機もあえて脱衣室に置かず、ランドリールームを独立させています。
脱衣室にあれば家事動線は便利になりますが、浴室まわりは、一日の終わりにゆっくり過ごせる空間にしたいという思いからです。
生活感よりも、心地よさを優先した選択です。


家づくりでは、「入れるもの」を考えること以上に、
「入れないもの」を決めることが重要だと感じています。
設備や部屋を増やすことは比較的簡単ですが、それによって空間の質が下がってしまっては本末転倒です。
限られた面積だからこそ、一つひとつの選択に理由を持つことを大切にしました。
設計とは、足し算だけではありません。
何を入れないかを決めることも、設計の大切な仕事だと思っています。

まとめ|小さな家だからこそ、設計が問われる
狭小地での自邸の家づくりは、予算・立地・面積といった制約の中での計画でした。
27坪という限られた敷地の中で、ガレージを確保し、居住空間の質も担保する。
その条件のもとでたどり着いたのが、2階リビングと坪庭を軸とした住まいです。
間取りを考える過程では、何を優先し、何を諦めるかを何度も繰り返しました。
その一つひとつの判断の積み重ねが、今の暮らしにつながっています。
家づくりは、間取りを考えることではなく、これからの暮らしを考えること。
私自身、自邸を建てて改めてそう実感しました。
この記事が、これから家づくりを始める方にとって、
「自分たちは何を優先したいのか」
を考えるきっかけになれば嬉しく思います。
家は広さで決まるものではありません。
限られた条件の中で、何を選び、何を手放すか。
その積み重ねが、暮らしの豊かさにつながるのだと思っています。

「自分たちにはどんな住まいが合うのだろう」
そんな疑問をお持ちの方は、ぜひ一度お話を聞かせてください。
設計者として、そして家づくりを経験した一人の施主として、お手伝いできればと思います。






